変形性股関節症における効果的なリハビリとは

変形性股関節症となる原因

通常、身体の関節では関節に直接衝撃がかからないよう、筋肉や腱、靭帯などが関節を支え負担を分散する役目を担っています。

しかし、変形性関節症では過度の関節運動、体重増加、外傷、生まれつきの亜脱臼、年齢などの様々な要因により、負担を分散する機能が正常に働かなくなります。そのため、 クッションの役割を担う軟骨に負担がかかり、軟骨自体の変性や消失、骨同士のこすれが関節の変形へとつながります。

変形性股関節症の場合では、股関節を成す寛骨臼や大腿骨頭の形態が変化していく中で動作に制限が見られます。また、日本の場合には先天性股関節脱臼や先天性臼蓋形成不全が原因で変形性股関節症になるケースが大半を占めています。

変形性股関節症のメカニズムと症状

変形性股関節症の症状は大きく分けて「前期」「初期」「進行期」「末期」の4つに分類されます。骨が変形していること以外に症状がみられない前期から、軟骨のすり減りが生じ始める初期に移行し、さらに軟骨が摩耗することで関節周囲に形成される骨棘(こつきょく)や骨膿疱(こつのうほう)がみられる進行期へと症状が進みます。最終的には軟骨が全て消失し、関節を動かせなくなる末期へと症状が進行します。

股関節 進行分類

変形性股関節症の進行分類

 

1:股関節の先天的な奇形や加齢により、軟骨の表面に軽度の磨耗が起こることで軟骨の構成成分が変化し始めますが、自覚症状はまだ少ない状態です。

2:軟骨の摩耗が進み、すり減ることで骨と骨の隙間が減っていきます。 軟骨の摩耗による刺激や関節への負担により関節炎が生じるため、股関節の付け根や外側に痛みがでるようになります。

3:関節軟骨の保水能力が減少し、軟骨の弾力が失われていることで可動域制限をきたします。この頃には、靴下をはいたり、足の爪を切ること、胡坐をかくことや股を開くなどの動作が困難になります。

4:軟骨のすり減りがさらに進むと、軟骨が消失し、軟骨の下にある骨がだんだんと露出されるようになります。クッション性のある軟骨ではなく、骨同士がこすれ合うので、痛みがさらにひどくなります。また、骨が押しつぶされることによって生じる「骨硬化」がみられるようになります。

5:骨同士がこすれ合うようになると、骨そのものが変形し始め、トゲのように飛び出して変形した「骨棘(こつきょく)」が見られるようになります。さらに骨に穴が開く「骨膿疱(こつのうほう)」によって骨の密度が低下し、関節の安定性が失われるため、歩行の際には上半身が左右に揺れたり、足を引きずったりする動作が目立つようになります。この頃の激しい痛みは、安静時や睡眠時にも生じるようになります。

6:さらに進行し末期になると、骨同士がくっついた状態で固まるようになり、股関節の拘縮 (こうしゅく)・強直(こうちょく)により股関節を動かせない状態になります。

股関節の変形

変形性股関節症の治療

股関節への過剰な負荷が疾患を進行させる要因とされてきましたが、具体的にどのような負荷が進行を加速させるのかは明らかになっていません。股関節の痛みを訴える方の中では、普段の姿勢や動作の癖によって歩行が障害されている ケースも多く、単に股関節の機能的な低下によるものではないと考えられています。

また股関節は多くの筋肉や靭帯に支えられているため、変形性股関節症の初期段階では、筋肉や靭帯の炎症と間違えられることもあります。

例えば、初期段階ではお尻や太もも、膝などに痛みや違和感、ダルさなどが現れるため、 股関節の病気だと気づかずに、腰椎椎間板ヘルニアと疑われることもよくあります。そのため、「早期発見」と「早期治 療」がなにより重要になります。まずは、手術以外の治療により痛みを和らげ、進行を遅らせるリハビリを視野に入れていきます。

日常生活において注意すること

日常生活において股関節への負担を減らすように生活します。歩行時に痛みが生じる場合は、杖や歩行器、手押し車などの体重を分散できる道具を使うことで股関節へのダイレクトな負担を軽減でき、股関節症の進行を妨げることが期待できます。

反対に、変形性股関節症は日常生活で股関節に負担になる行動を続けていると悪化していきます。今の生活に問題がないか、日常生活を見直してみることが治療の第一歩になります。

体重管理

歩行時には体重の約 2~3 倍、イスから立ち上がる際には約 6~7 倍の負担が股関節にかかっています。また、しゃがみ込んだ姿勢から立ち上がる時には、約 9~10 倍もの負担がかかります。少しの体重増加も股関節には大きな負担となり、痛みを引き起こす原因になりますので、身体に適した体重を知り、コントロールするように努めましょう。

適度な運動

股関節周りの筋肉の緊張をほぐし、程よい筋力をつけるために適度に身体を動かすことも大切です。股関節に負荷が少ないオススメの運動は、水泳や水中ウォークです。水の浮力を利用することで股関節に負担をかけずに筋力を強化できます。

ただし、いくら運動が効果的であっても、20分以上の連続した運動は症状を悪化させてしまうこともあるため避けるようにしましょう。また、急性期や痛みが強い時には安静にする必要があります。

冷え予防

身体が冷えると血行が悪くなり、筋肉が緊張して固くなります。筋肉が固くなると、痛みが増しやすくなるので、腰回りをなるべく冷やさないよう服装に気をつけましょう。

また、時間に余裕のあるときは湯船に浸かり、身体を温めるとさらに効果的です。ただし、こちらも運動と同じで、腫れていて熱を持っている場合は逆効果になるので入浴は避けま しょう。

生活スタイルを和式から洋式へ変える

和式トイレや布団など、日本式の生活は何かと股関節への負担が大きくなります。出来る範囲で、洋式トイレや椅子、ベッドの生活スタイルを取り入れ、股関節への負担を軽減させましょう。また、毎日履くシューズは、踵に弾力性のあるスニーカーを選ぶようにし、 底の硬い靴やハイヒールは避けましょう。

温熱療法

温熱療法は体を温めることで疾患部位の血行を改善し、筋肉をほぐして痛みを和らげる治 療法です。ただし、痛みが起きてすぐの急性期は炎症が起きているため、温熱療法が禁忌となり使用は控えます。

急性ではなく慢性の場合、リハビリ施設によってはマイクロ波やホットパックを使用して股関節周囲の血行を促進します。これにより凝り固まった股関節周囲の筋肉の弛緩を促し、自然治癒力を高めることで痛みの緩和や可動域の改善を図ります。

家庭では39~40℃程度のお風呂にゆっくり浸かることで、疼痛緩和の効果を得ることができます。そして、温熱療法のあとに運動療法を行なうことで、関節可動域の拡大と維持につながりさらに効果的になります。

薬物療法

疾患の急性期や、進行期、末期の強い痛みには薬物療法で対処します。抗炎症薬(消炎鎮痛剤)を用いて炎症を抑え、一時的に痛みを和らげることができます。薬物には注射・内服薬・外用薬の3種類がありますが、一般的にこれらは「痛み止め」と呼ばれている薬になり、炎症を抑えた結果、痛みが軽減する仕組みになっています。

そのため、医師から薬を処方されても飲まないで痛みを我慢する行為は、間違っていることがあります。また逆に、薬で一時的に痛みが抑えられているからといって、激しい動作を繰り返したりトレーニングするというのも、かえって病気を悪化させてしまうことがあるため注意が必要です。薬物療法では、適切な薬との付き合い方が重要になります。

運動療法

運動療法では主に、「ストレッチ」と「筋力トレーニング」の 2つを行ないます。このストレッチと筋力トレーニングの両方を組み合わせることによって、変形性股関節症の進行を遅らせる効果が期待できます。

変形性股関節症になると、関節の周りの組織に拘縮が見られ、股関節の可動域が狭くなります。さらに、痛みを生じることで活動量が低下し、筋力が衰え、 股関節の安定性も低下してしまいます。股関節が不安定になることによって、日常の動作が億劫になり、ますます痛みを引き起こしてしまう悪循環に陥るのです。

この悪循環を断ち切るには、セラピストによる徒手療法やストレッチ、筋力トレーニングが効果的です。リハビリでは、ストレッチで関節周りの柔軟性を高め、拘縮がみられる関節の可動域を拡大させるように働きかけます。筋力トレーニングでは、機械を使った強化法やセラピストの手による抵抗運動が代表的です。またリハビリに通いながら、自宅でのトレーニングも併せて行うとより効果が期待できます。

正常な歩行とは?

股関節の可動域を広げるための効果的な筋力トレーニングやストレッチの前に、まずは正常な歩行について解説していきます。

人の歩行には大きく分けて 3 つの「歩行周期」と呼ばれるサイクルがあります。歩行周期には地面が足についている時期の「立脚相」、足が地面から離れてスイングによって脚が前に運ばれる時期の「遊脚相」の2つに分けられます。

歩行動作

地面が足についている時は、お尻の筋肉(大殿筋・中殿筋)と内ももの筋肉(大内転筋)、 外ももの筋肉(大腿筋膜張筋)が働き、体が左右に倒れないように支えています。

また、前に歩を進めるためには、股関節周りの筋肉(腸腰筋)、前ももの筋肉(大腿四頭筋)、ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)が働き、ブレーキをかける時には太ももの裏の筋肉(ハムストリングス)、お尻の筋肉(大殿筋・中殿筋)、脛の筋肉(前脛骨筋)などがそれぞれ協調し、スムーズな歩行を可能にしています。

変形性股関節症に対するリハビリでは、これらの筋肉のストレッチや筋力トレーニングをすることで治療の効果が得られます。

変形性股関節症のストレッチ方法

まずは股関節周囲の筋肉をストレッチで緩めていきます。

1. 仰向けに寝て、両膝を立てます。

2. 1 の体勢のまま開脚と閉脚をゆっくり繰り返し、股関節周囲をほぐしていきます。股関節の位置が矯正され、スムーズに股関節が動きやすくなり、可動域が広がります。

股関節の運動

ストレッチを行なってから、軽めの筋力トレーニングを行います。しかし、過剰なトレーニングは股関節周囲の炎症が強くなり、進行を早めてしまうこともあるため注意が必要です。

上記のストレッチの体勢で、膝にゴムバンドを巻いて開閉すると、簡単に筋力トレーニングができます。筋力トレーニングをする際は、毎日無理のない範囲で行うようにしましょう。

変形性股関節症の筋力トレーニング

中臀筋 側臥位1:中殿筋・大腿筋膜張筋(股関節の外側)のトレーニング

横向けに寝転がり、トレーニングをする側の足をゆっくりと上げていきます。
この時に、体幹や足を上げる方向が真っ直ぐになる ように気をつけましょう。

内転筋 仰臥位

 

2:大内転筋(股関節の内側)のトレーニング

仰向きに寝て、太ももの間にクッションやゴムボールを挟みます。 クッションやゴムボールを挟むように力を入れていきます。

 

 

3:大腿四頭筋(股関節の前側)のトレーニング四頭筋 臥位

仰向きに寝て片膝を立て、もう片方の足は真っ直ぐに伸ばします。 伸ばしている側の足をゆっくりと上げていきます。

 

 

4. 大殿筋・ハムストリングス筋(股関節の後ろ側)のトレーニング

仰向けに寝て両膝を立て、ゆっくりとお尻を持ち上げます。うつ伏せになって、足を上に持ち上げる方法でもトレーニングすることができます。

ハムストリングス 仰臥位ハムストリングス 腹臥位

変形性股関節症の手術後のリハビリ

変形性股関節症で手術することになったとき、どのようなリハビリが必要になるのかご紹介していきます。変形性股関節症は「人工股関節置換術(じんこうかんせつちかんじゅつ)」という手術を行うことが一般的です。

人工股関節置換術とは

人工股関節置換術(THA:total hip arthroplasty または THR:Total Hip Replacement)は変形性股関節症により変形してしまった関節を、人工の関節に置き換える手術のことです。人工関節置換術は痛みの原因となる部位を直接的に手術で取り除くため、症状が進行しても痛みの緩和に大きな効果が期待できます。

また、壊れてしまった関節を痛みのない人工の関節に置き換えるので、しっかりと体重を支えることができ、安定した歩行が出来るようになります。

変形性股関節症だけではなく、大腿骨頭壊死症や関節リウマチなどにより股関節に著しい変形がある場合など、最も頻度の高い手術療法となります。 ただし、人工器具を体内に埋め込む手術になるため、術後の日常生活では注意しなければならないことがいくつかあります。

THA

手術後のリハビリ

手術をした翌日からリハビリがスタートします。

手術後は、何もせず寝ている状態が続くと、体内の循環が滞り血の塊が出来てしまいます。これを「深部静脈血栓症」といい、手術後の合併症として現れやすくなります。そこで弾性ストッキングの装着や、足首を曲げたり伸ばしたりする運動を行い、合併症を予防します。

リハビリで主に行うメニューは、人工関節が脱臼しないための動作トレーニングや歩行トレーニン グになります。ほとんどの場合、手術翌日からリハビリが可能となるため、歩行器や杖を使用しての歩行トレーニングやフリーハンドでの歩行練習を、経過をみながら行っていきます。

手術後の注意点

人工関節置換術の術後は脱臼しやすいため、体勢や動作に注意が必要です。リハビリでも脱臼しないための動作の獲得を目指しますが、日常生活でも脱臼しやすい動作には十分に気をつけなければなりません。

◯脱臼しやすい動作
屈曲(脚を上げて股関節を曲げる)・内転(脚を閉じる)・内旋(股関節を内側に回す) の組み合わせ動作と、90度以上の股関節の過屈曲は控えましょう。

◯日常生活で注意する動作
ベッドでの寝返り・移乗・ 更衣動作・入浴・トイレ・ 靴の脱着・横座り・座って行う動作全般・前かがみの姿勢・体をひねる動き・女の子座り(ぺたんこ座り)などに注意しましょう。

まとめ

変形性股関節症の治療には、温熱・薬物・運動療法があります。その中でも患者さん自身が積極的に取り組むことで効果を発揮するのが運動療法です。運動療法は病院で受けるだけでなく、いかに自宅でも積極的に行うかで治療成績が変わってきます。 また人工股関節置換術を受けると、日常生活動作での制限がかかるため、禁忌動作を意識したリハビリが必須となります。もちろん手術により筋力も低下しますので、術後も安全な方法で筋力トレーニングを行うことが重要です。

 

No.0035

監修:院長 坂本貞範

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