変形性膝関節症における臨床的評価法

疼痛

前述のように変形性膝関節症において、最も一般的な自覚症状は疼痛です。臨床的な重症度や治療効果を判定する上で極めて重要であり、初診時には詳細に評価をします。具体的には疼痛の強さ・部位性状・発現からの期間・出現のタイミング・持続時間・誘発動作などを問診します。

疼痛部位を特定することは、主病変が何であるかを調べる上で有力な情報となります。問診表には体の全体図や膝関節の図を載せて、患者自身に疼痛部位をチェックしてもらいます。また足全体におよぶ疼痛や複数関節での疼痛では、腰椎が起因する疾患や関節リウマチなど他の疾患との鑑別を行います。

変形性膝関節症における疼痛症状は、一般的は動作時痛や荷重時痛であり、動き始めや歩き始めに訴える初動時痛(starting pain)であることが多いです。一方で、安静時痛や夜間痛も訴えるような症例では、特発性骨壊死との鑑別が必要です。

局所所見

圧痛

圧痛部位の特定は疼痛部位とともに、主病変を明らかにする上で重要な所見となります。触診を行うときはただ漫然と検査をするのではなく、機能的な解剖を意識して圧痛点の検査をします。

関節水腫

変形性膝関節症における膝関節の腫脹は、関節水腫が原因である場合が多いです。検査方法としては、膝蓋骨の動きを確認する、「膝蓋跳動」の有無により評価します。変形性膝関節症の関節液には、炎症反応による発痛物質が含まれています。また関節液量が多くみられる場合は、物理的な刺激として疼痛を引き起こし、また膝の曲げ伸ばしなど可動域制限の原因となります。

しかし、注射により関節液を抜くことで一時的な除痛効果が得られます。また吸引した関節液を検査することにより、感染性の疾患や偽痛風、血友病性関節症などの鑑別に役立ちます。

筋萎縮

変形性膝関節症では疼痛により日常生活の活動が制限され、膝関節の周囲筋の廃用性萎縮(体を動かさないことで起こる萎縮のこと)がみられます。測定では、大腿周径(膝蓋骨上縁から10cm上の周径)および下腿周径(ふくらはぎの最も太い部分の周径)を評価します。

下肢の視覚的評価

下肢長(脚の長さの計測)

脚長差

下肢長の計測には、棘果長(spinomalleolar distance:SMD)と転子果長(trochanter malleolar distance:TMD)の2つがあります。両方とも仰臥位になり、股関節と膝関節を伸ばして計測します。

棘果長とは上前腸骨棘(股関節前面にある骨盤のでっぱり)と足関節内果(足の内くるぶし)の距離のことです。転子果長とは大腿骨大転子(股関節外側にある大腿骨の突起)と足関節外果(足の外くるぶし)の距離です。高度なO脚やX脚、あるいは膝が完全に伸びない屈曲拘縮がみられると、機能的な下肢長は短縮し脚長差が生じます。

アライメント

膝 OX脚変形性膝関節症の患者の多くは、O脚のように膝が外側に開いている内反膝になっていることが多く、X脚のような外反膝になっている場合は少ないです。まれに片方が内反膝、もう片方が外反膝を呈する場合があり、これをwindswept deformity と称します。

仰臥位あるいは立位になり、両足を揃えた際に、膝の間が指2本分以上開いているものを内反変形、内くるぶしの間が指2本分以上開いているものを外反変形といいます。あくまでも外観上の簡易的な評価のため、正確な評価にはレントゲンによる計測が必要です。

画像評価(レントゲン検査)

変形性膝関節症においてレントゲン検査は最も用いられうる画像検査であり、正面像・側面像・膝蓋骨軸写像およびローゼンバーグ(Rosenberg)撮影がおこなわれます。画像所見では関節裂隙の狭小化・骨棘の形成・軟骨下骨の骨硬化像などが代表的です。またレントゲンの分類ではケルグレンローレンス(Kellgren-Laurence)分類というものがあり、これは変形の重症度を4段階に分類したものです。
アライメントの評価では立位での撮影が必要であり、大腿骨と脛骨のなす角度を計測する大腿脛骨角(femorotibial angle:FTA) が指標として用いられます。

膝 K-L分類

Kellgren-Laurence分類

関節の機能評価

関節可動域 (range of motion:ROM)

関節可動域は日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会より発表されている測定方法に沿って評価します。膝の参考可動域は、屈曲(膝を曲げた角度)で130°、伸展(膝を伸ばした角度)が0°です。

徒手筋力検査法(manual muscle test:MMT)

膝周囲の筋肉は、膝関節の安定性に関与しています。例えば、太ももの前面にある大腿四頭筋(だいたいしとうきん)という筋肉は、膝関節の安定性において特に重要な筋肉です。

変形性膝関節症の症状が進行すると大腿四頭筋の筋力低下がみられますが、早期の場合では正常の膝と同等の筋力が保たれているとの検証もあります。筋力を簡易的に評価する方法としては、徒手筋力検査法(manual muscle test:MMT)があります。こちらの方法は、筋力を0から5までの6段階で徒手的に評価します。

MMT

関節の動揺性

膝関節のなかにある前十字靭帯を損傷し放置した場合、高い確率で変形性膝関節症を発生します。関節の動揺性の有無を評価には、ラックマンテスト(Lachman test)、ピボットシフトテスト(pivot-shift test)、前方引き出しテスト、後方引き出しテスト、内・外反ストレステストなどの徒手検査をおこないします。

関節機能スコア

関節機能を数値化するには、日本整形外科学会が作成した膝疾患治療成績判定基準 (JOA score)を用います。これは「歩行能力」「階段昇降能力」「屈曲角度および強直・高度拘縮」「腫脹」の4つの項目をチェックします。膝関節の機能を簡易に点数化できるためよく用いられますが、評価項目が移動能力と関節可動域に偏っているため、他の機能が評価されにくい面があります。

肥満度

肥満が変形性膝関節症の発生に重要な危険因子であることは、複数の研究により証明されています。ですので、膝に不安を感じている方は、自身の肥満度を調べる方がいいでしょう。
身長と体重を用いて肥満度を計算する方法に、BMI(body mass index) があります。その計算は、「体重(kg)÷身長(m)の2乗で算出でき、肥満の指標として最も一般的に使用されています。もしBMIが基準値より高く、減量をおこなうのであれば、ウォーキングや自転車エルゴメータ、水中運動など膝への負担が少ない有酸素運動が効果的です。

歩行評価

歩行の評価としては、10mの歩行に要する時間を測定する「10m歩行テスト」が一般的に用いられます。この10m歩行テストを動画で撮影することにより、歩行速度・歩幅・歩数・歩様などの評価が可能となります。

変形性膝関節症では、歩行速度は低下し歩幅が狭くなることで歩数は増えます。そしてストライド時間と両脚の支持時間は延長し、ゆっくりとした歩き方になります。また歩行時に膝が外側に動揺するラテラルスラスト(lateral thrust)も、変形性膝関節症でみられる特有の歩き方です。

ラテラルスラスト

ロコモティブシンドローム

ロコモティブシンドロームと変形性膝関節症は、深い関係性がみられます。特に高齢の患者の場合、転倒のリスクを把握する上で、 ロコモティブシンドロームの評価は重要となります。ロコモティブシンドロームの評価テストには、立ち上がりテスト・2ステップテスト・ロコモ25があります。

立ち上がりテストとは、10・20・30・40cmの台に座り、両足で立てたら次は片足でもテストをします。片足でも立てると、台の高さを下げてテストを繰り返えすといったテスト法です。

2ステップテストは歩幅を測定するテストです。歩幅を調べることで、足の筋力やバランス能力など歩行能力が評価できます。テスト方法は、なるべく大股で2歩歩いてもらい、その距離を身長で割り算し、その数値によりロコモ度を判定するものです。

ロコモ25は、身体能力や生活活動など25個の質問に答えてロコモ度を判定します。

 

まとめ

どの疾患でも共通していえることですが、疼痛を主訴として訴える疾患の病態は複雑であり、たとえ同一症例であっても個々の症例ごとに変化します。したがって治療やリハビリを行う上で、臨床的な評価を正確に把握することは必要不可欠です。また初診時以外でも定期的に再評価をし、記録として残すことで、患者自身も客観的に自分の症状の経過を知ることができます。

 

No.0002

監修:院長 坂本貞範

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