アキレス腱炎の症状や治療法について

アキレス腱炎とは

アキレス腱はふくらはぎの腓腹筋とヒラメ筋が合わさった腱であり、これらの筋力を踵の骨に伝える役割を担っています。アキレス腱の長さは約15cmで人体の中で最も大きな腱であり、また約1トンの牽引力にも耐えるような強靭さがあります。アキレス腱の付着部、またはアキレス腱周囲には腱の摩耗を防止する2種類の滑液包というものがあり、アキレス腱前方には後踵骨滑液包、後方にはアキレス腱滑液包があります。

アキレス腱炎はスポーツなどで繰り返された負荷が、小さな損傷や部分的な断裂を起こしている状態ですが、強い衝撃が加わるとアキレス腱が完全に断裂することもあります。アキレス腱の断裂は、若年者では運動のしすぎ(オーバーユース)により発生することが多いですが、中高年ではアキレス腱が老化して腱自体が硬くなり、急な負荷に耐えきれずに突然の断裂を起こします。

またアキレス腱はパラテノンという薄い膜で覆われており、この部分が炎症をおこしたものをアキレス腱周囲炎と言います。

アキレス腱炎を引き起こしやすい動作

以下の動作を繰り返すことでアキレス腱に負担がかかり、炎症の原因となります。
⚪️走行中の急な方向転換
⚪️ジャンプの着地
⚪️スタート時の蹴り出し

症状

歩いたり、走ったりすると足首の後ろ側に痛みが出現します。かかとの付け根から上部に2〜4㎝部分のアキレス腱が腫れている、皮下出血、またその部位を押すと痛みが増します。

完全断裂をした場合は、受傷時に「ふくらはぎを蹴られた」「バットでたたかれた」「破裂した音が聞こえた」という特徴的なエピソードがあります。また完全断裂をしていると、つま先立ちができないのも特徴的な症状のひとつです。

原因

ダッシュ

アキレス腱炎の受傷転機はダッシュ、ジャンプ、着地、バックステップ、踏み込みによる下腿三頭筋(腓腹筋+ヒラメ筋)が急激に収縮した時に発生します。これはランニングやジャンプなどの動作を繰り返すオーバーユースによる、アキレス腱への負担が炎症の原因と考えられます。

アキレス腱の損傷は、退行性変性(いわゆる腱の老化)が基盤にあるものと考えられており、30歳代から40歳代にかけて最も多く見られます。またアキレス腱が脆くなる原因のひとつに、アキレス腱の肥厚で太くなることが挙げられ、遺伝性の高脂血症(脂質異常症)が影響していると言われています。

走る、跳ぶ、回転といったちょっとした運動でも、その着地時の衝撃はアキレス腱には体重の何倍もがかかることがあります。また、その衝撃を身体の中で1番先に受ける場所でもあるからと考えられます。その他には、靴の不適合や扁平足など足の変形でも起こります。

その他、外傷によるものではなくフルオロキノロン(ニューキノロン)系、キノロン系の抗生剤の副作用としてアキレス腱炎、アキレス腱断裂になることが報告されています。発症例は1万人に対して約30人とごく稀ではありますが、1度の服用で発症されるケースも報告されています。

発症機序としてはコラーゲン組織の障害によるものと考えられており、フルオロキノロンの投与はその他にもコラーゲンに関連した疾患(大動脈瘤、大動脈解離、網膜剥離)をも発症する危険性が高いです。従ってフルオロキノロン、キノロン系薬剤の投与をする患者様へは十分に観察を要し、慎重に投与すべです。

診断

診察は痛みの部位や強い圧痛、腫脹、陥凹(かんおう)など症状を確認します。

画像診断

⚪️レントゲン検査
骨折の有無を確認するには有効な検査ではありますが、骨しか写らないためしっかりした診断はできないことが多いです。

⚪️超音速検査(エコー検査)
腱、靭帯、筋肉、血管等の軟部組織の画像抽出に優れており、アキレス腱断裂の診断には足を動かしながら患部の観察することができるため、最も有用な検査であると言えます。

⚪️MRI検査
アキレス腱の変性の程度や、周囲の炎症を確認することが出来ます。

 

これらの検査の中で、最も手軽で詳細にアキレス腱の損傷を観察できるのは超音速検査(エコー)です。

徒手検査法

⚪️Thompson squeeze test(トンプソンテスト)
うつ伏せで膝を90度曲げた状態でふくらはぎを強くつまむと、正常であれば足関節は底屈しますが、腱の断裂がある場合は足関節の底屈は起こりません。

アキレス腱炎と症状が似ている疾患

アキレス腱周囲炎
アキレス腱付着部障害
(踵骨後部滑液包炎、アキレス腱皮下滑液包炎、アキレス腱付着部炎)
アキレス腱付着部裂離骨折
腓腹筋挫傷(肉離れ)
腓骨筋腱脱臼
後脛骨筋腱炎
長母趾屈筋腱炎

治療

脚のリハビリ

保存治療(手術をしない治療法)

⚪️患部に負担をかける運動を中止し、安静を保つ
⚪️湿布、消炎鎮痛剤
⚪️アイシング
⚪️インソール
⚪️ギプスや装具にて固定
⚪️ストレッチ、マッサージ、超音波治療
⚪️リハビリテーション

アキレス腱を断裂した場合は手術をするケースもあります。

手術のメリット・デメリット

手術のメリットは断裂したアキレス腱を確実に修復することができ、術後のギプス固定の期間を短縮することが可能です。また早期にリハビリを開始することもできるので、早期にスポーツ復帰を実現させることができます。他にも再断裂のリスクが低いというメリットもあります。

デメリットは手術に伴う合併症(10〜20%)が存在することです。

アキレス腱断裂の手術に伴う合併症

⚪️肺塞栓症
手術中、手術後の安静や長期臥床により血液の巡りが悪くなり、下肢静脈に血栓(血のかたまり)ができ、それが血液の流れに乗って肺の血管まで運ばれ、塞栓する病気です。肺塞栓症を回避するために弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法(メドマーなどのフットポンプ)を使用します。

⚪️神経障害
神経が傷つき感覚が鈍くなったり、痺れが起こります。アキレス腱断裂における神経障害とは腓腹神経のことを言います。手術前に超音波検査にて腓腹神経の走行を確認して、皮膚上にマーキングすることで腓腹神経障害を予防することができます。

⚪️再断裂
手術をしない保存療法に比べると再断裂のリスクは低いとされていますが、足関節機能の回復が不十分でアキレス腱に過剰な負担がかかると、再断裂のリスクがあります。

⚪️縫合不全(創癒合不全)
皮膚が脆弱で血流が悪い方は、縫合不全を起こしたり、回復に時間がかかったり、追加の処置が必要となることがあります。

 

アキレス腱を断裂した場合、従来では手術をした方が早期から歩行ができ、社会復帰も早く、再断裂の可能性が低いと言われているため、手術を選択される方が多いです。しかし早期からリハビリに取り組むことにより、長期的な治療経過ではどちらも有意差は見られず、欧米では合併症のリスクを考えて手術をしない治療が主流になってきています。

 

No.0015

監修:院長 坂本貞範

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